建設工事の取引において、元請負人が下請負人に対し、原価を下回る金額での契約締結を強いる行為は、建設業法第19条の3によって明確に禁止されています。この規定は、建設業における対等な取引関係を守るための重要な条文です。

禁止される行為の内容

 同条は、「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない」と定めています。

ここでいう「通常必要と認められる原価」とは、当該工事の施工地域において、その工事を施工するために一般的に必要とされる材料費・労務費・法定福利費等を含む価格を指します。社会保険料に相当する法定福利費を一方的に減額するような行為も、この規定に違反するおそれがあると解されています。

また、「自己の取引上の地位の不当利用」とは、元請負人という立場を背景に、下請負人が取引継続のために不利な条件を受け入れざるを得ない状況を利用することを意味します。下請負人との十分な協議を経ず、一方的に請負金額を決定していわゆる指値発注を行うケースがその典型例とされています。

契約後の変更にも適用される

 この規定は、契約締結の場面だけに限りません。契約締結後に工事内容の変更があったにもかかわらず、それに見合う下請代金の増額協議に応じない場合や、一方的に下請代金を減額する行為も、本条の適用対象となるおそれがあります。追加工事の費用を下請負人に実質的に負担させる行為も同様です。

違反した場合の行政上の取扱い

 建設業法第19条の3には直接の罰則規定は設けられていません。ただし、第19条の6に基づき、国土交通大臣または都道府県知事が発注者に対して勧告を行うことができます。なお、この勧告は、国・地方公共団体や一般消費者など独占禁止法上の事業者に該当しない発注者が対象です。発注者が民間事業者(独占禁止法上の事業者)である場合は勧告規定は適用されず、代わりに独占禁止法上の優越的地位の濫用として公正取引委員会による処分の対象となります。

まとめ

 建設業法は、第18条において「各当事者が対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結する」ことを基本原則として定めています。この原則を実質的に担保するのが、第19条の3の不当に低い請負代金の禁止規定です。元請負人は、下請負人との価格協議を誠実に行い、通常必要と認められる原価を下回らない水準での取引関係を維持することが求められます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
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吉田哲朗
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