
建設工事の現場では、元請業者から下請業者へと工事が段階的に委託されることが一般的です。こうした取引構造の中では、立場の強い事業者が弱い立場の下請業者に対して、不当な条件を押しつけるリスクが生じやすくなります。このような問題に対応するため、建設業の下請取引には複数の法律が関わっています。
建設工事の下請負には「建設業法」が適用される
一般的な建設工事の下請負には、建設業法が適用されます。建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することを目的として制定された法律です。
建設業法が下請取引に対して定める主な規制の内容としては、次のものが挙げられます。
まず、書面による契約の義務です。建設工事請負契約の締結にあたっては、所定の事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません(建設業法第19条)。口頭による発注は認められず、追加・変更工事が生じた場合も書面での合意が必要です。
次に、不当な取引条件の禁止です。請負人に対する不当な搾取を防ぐため、不当に低い請負代金の設定(建設業法第19条の3)、不当な使用資材等の購入強制(建設業法第19条の4)、著しく短い工期の設定(建設業法第19条の5)がそれぞれ禁止されています。
また、一括下請負(丸投げ)の禁止も重要な規制です。建設業者は、請け負った建設工事を一括して他人に請け負わせることを原則として禁止されており(建設業法第22条)、元請人が主体的に施工に関与する「実質的関与」が求められます。ただし、民間工事(共同住宅の新築工事等を除く)については、あらかじめ発注者から書面による承諾を得た場合は例外的に認められます。なお、公共工事については発注者の承諾があっても一切禁止されています。
さらに、地盤沈下など工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあるときは、注文者は建設業者に対し、契約締結前に必要な情報を提供しなければなりません(建設業法第20条の2)。
建設工事以外の取引には「下請法(取適法)」が関わる場合も
建設工事の下請負については、下請法の適用対象となる役務提供委託から、建設業を営む者が業として請け負う建設工事の全部または一部を他の建設業を営む者に請け負わせることが除外されています。
ただし、建設業者が行う取引のすべてに建設業法のみが適用されるわけではありません。建設工事に伴う設計業務、地質調査業務、測量業務、建設資材の製造業務等は、建設業法にいう建設工事には該当しないため、下請法(取適法)による規制を受けることになります。
2026年施行「取適法」への対応も視野に
2026年1月に施行された改正では、法律名が「下請代金支払遅延等防止法」から「中小受託取引適正化法(取適法)」へと変更されました。建設業の請負工事契約は取適法の適用対象外となります。ただし、建設業法によって別途専門的に規律されているため、実務上は取適法とほぼ同等の規制がかかっているとされています。
取適法で注目される改正点としては、労務費や原材料費、エネルギーコストなどが上昇した際に、中小受託事業者から価格引き上げの要請があった場合、委託事業者は誠実に協議に応じる義務を負うという、価格協議義務の明文化が挙げられます。また、手形払いが原則として禁止され、支払期日までに現金で満額を受け取れる方法のみが認められるようになりました。
建設業者にとっては、建設工事本体に適用される建設業法の規制を正確に理解するとともに、設計・測量・資材製造など工事に付随する委託取引については取適法との関係も確認しておくことが重要です。取引の実態に応じてどの法律が適用されるかが変わるため、適正な取引体制の整備が求められます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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