
なぜ「請負契約の原則」が定められているのか
建設工事の取引は、発注者と受注者、元請負人と下請負人など、立場の強弱が生まれやすい構造を持っています。一方が優位な立場を利用して不合理な条件を押しつける、いわゆる「片務的な契約」が横行すれば、下請業者の経営を圧迫するだけでなく、工事の品質や安全にも影響を及ぼしかねません。
こうした事態を防ぐために、建設業法は第3章において請負契約の適正化に関する規定を設けています。その出発点となるのが、第18条に定められた「建設工事の請負契約の原則」です。
建設業法第18条 対等・公正・誠実の三原則
建設業法第18条は次のように定めています。
「建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない。」
この条文には、三つの重要な要素が含まれています。
①対等な立場における合意
発注者・受注者のどちらかが一方的に条件を決めるのではなく、双方が対等な立場で合意することが求められます。元請・下請の関係においても同様です。
②公正な契約の締結
合意の内容が公正なものでなければなりません。著しく不利な条件や原価割れの請負代金は、第18条の趣旨に反する行為として位置づけられます。
③信義に従った誠実な履行
契約を締結するだけでなく、その内容を信義に基づいて誠実に実行することが双方に求められます。
建設業法第19条 書面による契約締結の義務
第18条の趣旨を具体化したのが、第19条(建設工事の請負契約の内容)です。民法上、契約は口頭の合意だけでも成立しますが、建設業法では必ず書面を作成し、双方が署名または記名押印して相互に交付することが義務付けられています。これは、工事内容や金額・工期など複雑な事項を口頭で取り決めると、後日「言った・言わない」の紛争に発展しやすいためです。
なお、この義務は軽微な建設工事にも適用される点に注意が必要です。許可が不要な小規模工事であっても、請負契約書の作成・交付は省略できません。
契約書面には、第19条第1項が定める以下の16項目を記載しなければなりません(現時点で第16項目に該当する省令事項はなく、実質的には15項目)。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期・完成の時期
- 工事を施工しない日または時間帯(定める場合)
- 前払いまたは出来形部分に対する支払の時期・方法
- 設計変更・工事中止等の場合の工期・代金変更の取り扱い
- 天災その他不可抗力による工期変更・損害負担の方法
- 価格変動に基づく請負代金・工事内容の変更
- 第三者への損害賠償の負担
- 注文者提供の資材・機械の内容・方法
- 検査の時期・方法および引渡し時期
- 工事完成後の請負代金の支払い時期・方法
- 契約不適合責任または保証保険措置の内容(定める場合)
- 遅延利息・違約金・損害金
- 紛争解決の方法
- その他省令で定める事項
また、契約内容を変更する場合も、その都度変更内容を書面に記載して相互に交付しなければなりません(第19条第2項)。双方の承諾を得た上での電子契約も、一定の要件を満たす場合に認められています(同条第3項)。
契約書のコピー交付は違法
実務上よく見られる誤りとして、契約書を1通だけ作成し、相手方にはコピーを渡すケースがあります。しかし、建設業法第19条は「相互に交付」を明記しており、双方がそれぞれ原本を保持することが求められます。コピーの交付では建設業法違反となりますので、注意が必要です。
まとめ
建設業法第18条・第19条が定める請負契約の原則は、「対等・公正・誠実」という基本姿勢のもと、書面による明確な契約を義務付けることで、すべての当事者を守る制度です。契約書が適正に作成・交付されているかを日頃から確認することが、トラブル防止と法令遵守の第一歩となります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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