
建設業界では、元請負人(発注者から直接工事を受注し、下請契約の注文者となる建設業者)と下請負人との間に、立場上の力関係が生じやすい構造があります。建設業法は、この力関係が不公正な取引につながることを防ぐため、元請負人に対してさまざまな義務と禁止事項を定めています。
建設業法が定める元請負人の主な義務
建設業法第3章第2節(第24条の2〜第24条の8)には、元請負人の義務として以下の7項目が規定されています。
①下請負人の意見の聴取(第24条の2)
元請負人は、工程の細目や作業方法などを決定しようとするときは、あらかじめ下請負人の意見を聴かなければなりません。専門工事を担う下請負人の知見を工程に反映させることが目的です。
②下請代金の支払(第24条の3)
元請負人は、注文者から出来形部分の支払を受けた日から1か月以内に、その割合に応じた下請代金を支払わなければなりません。発注者からの入金の有無にかかわらず支払義務が生じる点に注意が必要です。
③検査及び引渡し(第24条の4)
下請負人から工事完成の通知を受けた元請負人は、20日以内に検査を完了しなければなりません。
④不利益取扱いの禁止(第24条の5)
元請負人が法令違反をしているとして下請負人が行政庁や公正取引委員会に通報した場合、その報復として取引停止などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
⑤特定建設業者の下請代金の支払期日等(第24条の6)
特定建設業者が元請負人となる場合は、下請負人の引渡申出の日から50日以内という支払期日の制限が課され、超過した場合は年14.6%の遅延利息が発生します。
⑥下請負人に対する特定建設業者の指導等(第24条の7)
⑦施工体制台帳及び施工体系図の作成等(第24条の8)
不当に低い請負代金の禁止
建設業法第19条の3は、元請負人が取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額で下請契約を締結することを禁じています。いわゆる「ダンピング発注」の規制です。
2024年6月に成立・公布された建設業法改正(令和6年法律第49号)では、この原価割れ契約の禁止を受注者側(下請負人)にも拡大する規定が盛り込まれ、2025年12月12日に全面施行されました。あわせて、著しく低い労務費による見積提出・変更依頼の禁止、および工期ダンピング(著しく短い工期での請負契約)の受注者への禁止拡大も同日施行されています。
これにより、元請負人・下請負人のいずれの立場においても、原価割れ・労務費ダンピング・工期ダンピングが法律上の禁止行為となりました。違反した受注者に対しては国土交通大臣等による指導・監督処分が、違反した発注者に対しては勧告・公表の措置が講じられます。
独占禁止法との関係
建設工事の下請負には下請法(2026年1月以降は「取適法」へ名称変更)が適用されませんが、独占禁止法は適用されます。公正取引委員会は「建設業の下請取引に関する不公正な取引方法の認定基準」を定め、代金支払の遅延・減額、資材購入の強制、不当に低い請負代金など10項目を規制しています。
まとめ
元請負人と下請負人の公正な取引を確保するための規制は、建設業法の義務規定・禁止規定、独占禁止法の双方にわたっています。2024〜2025年の建設業法改正により規制が強化されており、元請負人・下請負人のいずれの立場においても、法令の最新動向を把握したうえで適切な取引慣行を維持することが求められます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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