
建設工事の請負契約を締結する前には、見積書の作成・交付が求められる。しかし、見積書の「内訳記載」に関して法律上どのような義務や努力義務があるのかを、十分に把握していない事業者も少なくない。本記事では、建設業法の規定をもとに、見積書の内訳記載に関するルールを整理する。
建設業法第20条と内訳記載の基本
建設工事の見積りについては、建設業法第20条に規定されている。令和7年12月12日に同条は改正・全面施行され、内訳記載に関する要件が強化された。
改正後の第20条第1項では、建設業者は請負契約の締結に際し、工事の種別ごとの材料費・労務費、および適正な施工を確保するために不可欠な経費(法定福利費の事業主負担分・安全衛生経費・建設業退職金共済の掛金など)の内訳、さらに工程ごとの作業日数を記載した見積書(「材料費等記載見積書」)を作成するよう努めなければならないとされた。この規定は努力義務であり、元請・下請間、下請・下請間のみならず、発注者・元請間の見積りについても対象となっている。
著しく低い見積りの禁止
改正により新たに設けられた規定では、材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、「当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであってはならない」とされた。これはダンピングを防止し、労務費をはじめとする必要経費が適正に確保されることを目的としている。また、見積書に記載した材料費等の額を著しく下回る変更依頼を行って契約を締結した発注者には、許可行政庁から勧告がなされる場合がある。
内訳書に記載すべき費用の区分
見積書の内訳として明示が求められる主な費目は以下のとおりである。
直接工事費として、材料費・労務費・機械器具費などが挙げられる。材料費は品目・数量・単価を明記することが望ましい。労務費は職種・人工数・単価を記載することで根拠が明確になる。
諸経費については、現場管理費(現場監督の人件費・法定福利費・安全対策費・保険料など)と一般管理費(本社の役員給与・事務所賃料・通信費など)に区分して記載することが求められる。「一式」のみで内訳を示さないままにすると、発注者が金額の妥当性を判断できず、後のトラブルにもつながる。
法定福利費・安全衛生経費の明示
法定福利費(健康保険・厚生年金・雇用保険の事業主負担分)については、各専門工事業団体が標準見積書を作成しており、下請業者から元請業者への提示が平成25年から推進されてきた。今回の改正では法令上の位置づけが明確化されている。
安全衛生経費については、国土交通省が「安全衛生経費を内訳明示した見積書作成手順(案)」を公表しており、個別積算方式または比率方式での計算が示されている。
まとめ
内訳を明示した見積書の作成は、建設業法上の努力義務として位置づけられている。金額の透明性を確保することは、発注者との信頼関係を構築するうえでも重要である。実務上の具体的な記載方法については、各専門工事業団体の標準見積書や国土交通省のガイドラインも参考にしながら、適切に対応することが望ましい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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