
建設業の決算書類を作成するとき、「製造原価」と「完成工事原価」という似た言葉が登場する。どちらも売上に直接対応する原価を示す概念だが、根拠となる会計のルールと使用する様式が異なる。税務申告用に作成した製造原価報告書をそのまま建設業の財務諸表へ転用することはできず、両者の違いを正しく理解しておく必要がある。
製造原価とは何か
製造原価は、製品を作るために要した費用の総額を指す。一般的な製造原価報告書は材料費・労務費・経費で構成され(会社によっては外注費を区分する例もある)、期首と期末の仕掛品を加減して当期製品製造原価を算出する。一般的な原価計算の考え方に沿って処理される点が特徴である。
完成工事原価とは何か
完成工事原価は、その事業年度に完成し引き渡した工事に対応する原価をいう。建設業法施行規則の別記様式に基づき、損益計算書とあわせて完成工事原価報告書を作成する。区分は材料費・労務費・外注費・経費の四つで、労務費には「うち労務外注費」、経費には「うち人件費」という内書きが設けられている点が、製造原価との大きな違いである。
外注費が独立した費目になっている理由
建設工事は下請への発注を前提とする構造であり、原価に占める外注費の比重が高い。そのため完成工事原価では外注費を独立した費目として表示し、施工体制の実態が数字から読み取れるようにしている。労務費と外注費の区分が曖昧なままだと、完成工事総利益率が実態と乖離するおそれがある。
人件費の振り分けに注意
現場作業員の賃金は労務費、現場代理人や施工管理を担う技術者の給与は経費のうち人件費、営業・事務担当者の給与は販売費及び一般管理費に計上する。製造原価報告書では作業員以外の人件費も労務費に含まれている場合があり、そのまま転記すると区分を誤ることになる。
未成工事支出金の扱い
未完成の工事に投じた費用は未成工事支出金として資産に計上し、工事完成基準による場合は完成引渡しの時点で完成工事原価へ振り替える。製造業の仕掛品に相当する考え方だが、完成工事原価報告書には期首・期末の未成工事支出金を記載する欄がないため、各費目に加減して調整したうえで記載する必要がある。
兼業事業がある場合の区分
建設業以外の事業を併せて営む場合、その売上原価は兼業事業売上原価として完成工事原価と区分して表示する。製造業を兼業していれば、その製造原価は兼業事業売上原価の側に集計されることになる。区分を誤ると、経営事項審査における評価にも影響が及ぶ。
まとめ
製造原価と完成工事原価は、売上に対応する原価という点では共通するが、費目の区分・様式・振替のルールが異なる。事業年度終了届(決算変更届)の提出前には、税務用の決算書を建設業の様式へ組み替える作業が必要になる点を押さえておきたい。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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