
建設工事において、工期は安全性、施工品質、労務管理のすべてに直結する重要な要素です。
無理な工期設定は、現場に過度な負担を強いるだけでなく、事故や品質低下、法令違反の温床にもなりかねません。
こうした問題を防ぐため、建設業法では著しく短い工期による請負契約を防止する規定が設けられています。
本記事では、「著しく短い工期の禁止」について、その制度趣旨と実務上の注意点を整理します。
制度の背景と目的
建設業界では、発注者側の事情やコスト・スケジュール優先の判断により、施工の実態に見合わない工期が設定されるケースが少なからず存在してきました。
しかし、過度に短い工期は、次のような深刻な問題を引き起こします。
・安全管理が形骸化し、労働災害のリスクが高まる
・工程が圧縮され、施工品質の低下につながる
・長時間労働や休日不足が常態化し、労務環境が悪化する
これらの問題を是正するため、建設業法では、注文者が、通常必要と認められる期間に比して著しく短い工期の請負契約を締結することを禁止しています。
「著しく短い工期」はどのように判断されるのか
「著しく短い工期」に該当するかどうかについて、法律上「○日以内なら違法」といった一律の数値基準は設けられていません。
そのため、判断は工事ごとの条件を踏まえた個別具体的な検討によって行われます。
判断のよりどころとしては、中央建設業審議会が示す工期に関する基準などがあり、主に次のような点が考慮されます。
・工事の規模、構造、工種の内容
・通常想定される施工手順と必要日数
・天候や立地条件などの外的要因
・安全管理や検査工程に要する期間
これらを無視し、通常の施工工程では完了が見込めない工期が設定されている場合、「著しく短い工期」と判断される可能性があります。
発注者に求められる対応
建設業法において、**直接「締結してはならない」と規定されている主体は注文者(発注者)**です。
発注者は、単に希望する完成時期を優先するのではなく、施工に必要な合理的期間を踏まえたうえで工期を設定する必要があります。
特に、
「急ぎの案件だから」
「予算年度の都合があるから」
といった理由のみで工期を短縮することは、法令上のリスクを伴います。
受注者に求められる姿勢
条文上、直接の禁止対象は注文者ですが、受注者にも重要な役割があります。
受注者は、無理な工期が提示された場合、適正な工期を前提とした見積を提示し、協議を尽くすことが求められます。
また、短工期を前提に無理な施工を行えば、安全・品質・労務の各面で重大なリスクが生じるおそれがあります。
実務上の重要な注意点
実務では、次のような対応が工期トラブルの防止につながります。
・工程表を作成し、必要日数を客観的に示す
・安全・品質確保に必要な期間を明確に説明する
・工期に関する協議内容や調整経過を書面で残す
また、国の周知資料では、違法な時間外労働(上限規制超え)を前提とした工期については、当事者間で合意があった場合でも、「著しく短い工期」と判断される可能性があることが示されています。
工期は請負契約の根幹に関わる条件であり、後から修正することが難しい重要事項である点を十分に意識する必要があります。
まとめ
著しく短い工期の禁止は、建設現場の安全確保、施工品質の維持、健全な労務環境の形成を目的とした制度です。
発注者・受注者のいずれにとっても、適正な工期設定は、リスクを回避し、信頼関係を築くための重要な前提条件となります。
契約前の段階で工期を丁寧に検討し、無理のない工程で工事を進めることが、結果として双方の利益につながります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。
内容は行政書士 吉田哲朗(行政書士吉田哲朗事務所 代表)が確認し、公開時点の法令・運用基準に基づき監修しています。
実際の申請要件や判断は、各行政庁の指導に従ってください。
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