建設業の許可制度において、よく聞かれる疑問のひとつが「なぜ知事許可なのに、都道府県によって審査の内容や難易度が違うのか?」という点です。全国共通のルールがあるはずなのに、地域によって対応や判断が異なることがあり、その背景を正しく理解しておくことは、申請の準備や対応に大きく関わってきます。

1.建設業許可の基本構造

建設業許可には「国土交通大臣許可」と「都道府県知事許可」があります。前者は複数都道府県で営業所を設置する場合、後者は一つの都道府県のみで営業所を構える場合に必要とされます。

ここで重要なのは、「知事許可」の場合、その審査・判断を行うのは申請先の都道府県であるということです。つまり、形式上は国の制度であっても、実務上は各都道府県が窓口となり、審査の運用を担っているのです。

2.共通の基準と異なる「運用」

建設業法そのものは全国共通です。例えば「経営業務の管理責任者」「専任技術者」「財産的基礎」など、必要な要件は明確に定められています。しかし、その一方で「書類の形式」「実務経験の確認方法」「補足資料の要求」など、運用面では都道府県ごとに独自のルールや判断基準が設けられていることがあります。

これは建設業法に一定の「裁量」が認められているためであり、国が一律のマニュアルを細部にわたって設けていないことによって、現場対応が地域に委ねられているのが実情です。

3.地域事情や行政体制の違い

各都道府県には、それぞれ異なる建設業の実情があります。都市部では企業数も多く、審査件数も膨大であるため、手続きの簡略化やデジタル化が進んでいるケースもあります。逆に、地方では個別対応を重視し、書類審査がやや厳しくなる傾向も見られます。

また、審査を行う職員の人数や経験の差も影響します。同じ「実務経験10年」を証明する資料であっても、ある県では受理され、別の県では追加の説明を求められる、ということも実際に起きています。

4.審査マニュアルの「非公開」性

さらにややこしいのが、都道府県が内部的に用いている「審査基準マニュアル」が、原則として公表されていないことです。外部から見れば、何がOKで何がNGなのか明確にわからず、結果として「事前相談で聞いてみないと分からない」という対応になりがちです。

このことが、実務上の混乱や不信感につながる原因ともなっています。

5.事前相談の重要性と対策

こうした差異を踏まえると、申請にあたって最も有効な対策は、「申請予定の都道府県における事前相談を徹底する」ことです。自治体によっては、申請前の相談を義務化しているケースもありますが、仮に任意でも行っておくべきです。

事前相談の際には、申請者の状況を詳しく伝えたうえで、「どのような書類をどこまで求められるか」「追加で必要となる可能性がある資料は何か」といった点を確認しておくことが重要です。

まとめ

知事許可の審査が都道府県ごとに異なる背景には、建設業法の裁量運用、地域の事情、行政組織の体制など、さまざまな要因が絡んでいます。申請をスムーズに進めるためには、「共通基準の理解」と「地域ごとの運用への柔軟な対応」を両立させることが求められます。

事前の情報収集と相談を怠らず、必要に応じて専門家のサポートを受けることで、申請リスクを最小限に抑えることができるでしょう。

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